調剤薬局のM&Aの背景やメリットとは?個人での買収も可能?
2019.01.20 会社・事業を買う調剤薬局では大手調剤薬局チェーンによる中小の薬局の買収が進むなど、M&Aが活発化しています。なぜ、調剤薬局ではM&Aが盛んに行われているのでしょうか。調剤薬局でM&Aによる業界再編が進む背景や、調剤薬局の買収によるメリットなどについて解説していきます。また、個人での調剤薬局の買収についても触れていきます。
調剤薬局を取り巻く現状
調剤薬局のM&Aが活発化する背景を見ていく前に、まずは調剤薬局を取り巻く現状についてみていきます。
成長率が横ばいで飽和状態
厚生労働省では医薬分業を進めてきた中、公益社団法人日本薬剤師会のデータによると、院外の薬局で調剤を受けた割合である「処方箋受取率(=医薬分業率)」は、2003年に50%を超えました。2017年には処方箋受取率72.8%にまで及び、成長率は横ばいとなって来ています。
一方、調剤薬局の数は5万店舗を超えてコンビニの数を上回っているうえに、ドラッグストアでも調剤を併設店舗が増えています。大病院の前の調剤薬局は数店舗どころか10店舗あるケースも見受けられることからも、飽和状態となっているのです。
薬価報酬の改定による収益の悪化
調剤薬局の競争が激化する一方で、医療費を圧迫する要因となっていることから、薬価報酬は改定のたびに引き下げられているため、調剤薬局の収益悪化を招く結果となっています。医薬分業を進めるため、利益誘導で調剤薬局を増やしてきた時代から様変わりしています。2018年の薬価改定では、薬剤費ベースで7.48%の引き下げが行われました。調剤基本料の見直しが行われ、大規模な病院の前にある門前薬局の診療報酬が下げられたことは、大手調剤薬局チェーンの収益にも大きく影響しています。
薬局のM&Aが進む背景
調剤薬局のM&Aが進む背景にあるのは、大手チェーンの生き残りをかけた施策と、人材不足に悩む中小の調剤薬局の利害が一致していることにあります。
大手調剤薬局の生き残りにはM&Aが必要
薬価報酬の引き下げによる収益の悪化を改善するには、店舗網を広げることで、商品の取り扱い数量を増やし、仕入れ価格を抑えることが考えられます。しかし、ただでさえ調剤薬局は飽和状態であることから、新規に出店すると市場競争をますます激化させてしまうことが懸念材料です。
そこで、新たに自社で出店するのではなく、中小の調剤薬局を買収するスキームをとると、自社の店舗は増えても、調剤薬局のマーケット全体でみたときに店舗数は増えません。そのため、大手の調剤薬局では、事業の継続が難しい中小の調剤薬局を買収する戦略に打って出ています。
中小の調剤薬局は薬剤師の採用難
一方、中小の調剤薬局は後継者不足に加えて、薬剤師の採用難に陥っています。1997年頃に医薬分業が進められたことによって増えた家族経営の小規模の薬局では、世代交代の時期を迎えていますが、薬剤師の確保が難しい状況です。これには二つの要因があり、ひとつには薬剤師が6年制教育となったことで、薬剤師を志願する人が減っていることが挙げられます。もうひとつは大手調剤薬局が積極的な採用を行っていることで、待遇や福利厚生の面で差などから、中小の調剤薬局には人材が集まりにくくなっているのです。
買収された薬局側のM&Aのメリット
調剤薬局のM&Aは、主に大手調剤薬局チェーンが中小の薬局を買収する形ですが、買収された薬局側にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
後継者問題を解決できる
調剤薬局は飽和状態とはいえ、立地によっては近くに他の薬局がないエリアもあります。経営者の高齢化によって調剤薬局を廃業してしまうと、近くの医療機関や患者さんに迷惑をかけることになります。しかし、中小の調剤薬局が経営者となる薬剤師を簡単に見つけられる時代ではありません。M&Aによって新たな経営者のもとで調剤薬局の運営が継続されれば、医療機関との関係は維持され、患者さんが困ることもありません。また、従業員を雇用している場合には、基本的に雇用関係が継続するため、働く場を失う事態も避けられます。
また、オーナー経営者は創業者利益を得られることもメリットです。調剤薬局の譲渡価格は営業利益の3年分程度が目安ですが、立地条件がよい場合には営業利益の5年分や7年分になるケースもあります。
薬剤師を確保しやすくなる
これまで薬剤師を採用できていなかった中小の調剤薬局は、大手のチェーンに変わることで人材を確保しやすくなります。大手チェーンはブランド力から採用がしやすく、大手企業の一員になることで薬剤師の仕事へのモチベーションが上がるというメリットもあります。
買収した薬局側のM&Aのメリット
中小の調剤薬局の中には経営状態が芳しくないケースでも、M&Aが行われていることがあります。買収した薬局側には、規模の経済性によるメリットがあるためです。
規模の経済性が得られる
大手の調剤薬局チェーンは店舗数を増やして集客ができれば、仕入れ価格を下げられる、人員を効率よく運用できるといった、規模の経済性が得られ、収益にプラスに働きます。しかし、新規に出店をするには、出店を予定するエリアに関するリサーチが必要であり、構想から実現までには時間もコストも必要です。新たに薬剤師を確保する必要もあります。さらに、市場全体の薬局数を増やしてしまうことによるマイナス効果も懸念事項です。
そこで、既存の中小の薬局を買収すると、短期間で店舗を増やすことが可能となり、これまでの顧客や従業員を引き継ぐことができます。調剤薬局や規模の経済性を高めるには、新規よりもM&Aの方が効率がよいのです。
個人での買収は独立の手段のひとつ
独立を希望する薬剤師は、新規に開業する以外に薬局を個人で買収することも選択肢となります。個人でも、規模によっては薬局の買収が可能です。
中小の調剤薬局なら買収も可能
中小の調剤薬局では後継者問題を抱えているケースが少なくなく、薬局の譲渡を受けることで独立を果たす道もあります。薬局のオーナー経営者は薬局の譲渡によって創業者利益を得られます。買収する薬剤師にとって、イチから開業する場合はどの程度の患者さんの来訪が見込めるか、リサーチを行っても未知数な部分がありますが、既存の薬局を引き継ぐことで顧客も受け継げることがメリットです。
個人で自己資金と借り入れで購入できる薬局は、譲渡価格ベースでは2,000~4,000万円が目安です。薬局の1日に取り扱う処方箋枚数による規模では30枚~50枚程度のところになります。薬局のM&Aが活発化していますが、買収の対象となるのは大手の調剤薬局チェーンの場合は1日に処方箋80枚以上の薬局、中堅の調剤薬局チェーンでも処方箋60枚以上が目安となっています。それよりも小さな規模の薬局は、大手も中堅も目をつけることが少ないことからも、個人での買収に向いているといえます。
まとめ
薬価報酬の引き下げによって収益の悪化が進む中、調剤薬局は生き残りをかけてM&Aが活発化しています。売り手側となる中小の調剤薬局にとっては、今後、後継者不足や経営状況の悪化が深刻化する薬局が増加し、売り手が供給過多になる前のタイミングが売り時です。売り手が増加していくと、適正価格よりも買い叩かれることが懸念されます。買い手側にとっては、ますます買収するべき薬局の見極めが重要になってきます。
売り手側、買い手側ともに自社に合った相手を自力で見つけるのは難しいですので、M&Aを考えたら、まずはM&A仲介会社に相談してみましょう。